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#13. なし子の場合

↓前回まではコチラ(この物語はフィクションです)

自信のマホウ|とし.いのりんどう|note


(この物語はフィクションです)


なし男には
かわいい妹がいた。


なし子は
とってもとっても優しくてかわいくて大人しい子だ。
とても怖がりで臆病で繊細だった。


小さい頃から
なし男に
ずっとくっついて回っていた。


よく一緒に
おさんぽしたのだと思う。

小さい頃の写真で
なし子の手を引いて、握ってるものがあり
お気に入りだ。

でも
そんな
なし子も
家庭という社会の
我が家のスタイル・ルールの中、

いつも
怒鳴り声と緊張で
すっかり縮こまってしまっていた。

父親さんの怒鳴り声は
女の子の
なし子にとって
もっともっと怖かったのではないかと
可哀想に思う

それに
母親さんは


なし男の場合は
まだ男の子だったから

ネガティブだったり
話を聞く係として
消耗する程度で済んでいて

半分は
母親さんで優しかった部分
お世話になって
かなり感謝してる部分も多い

でも
なし子は
女の子だからか


小さい頃
大人しくて
言いやすかったからか


母親さんから
しょっちゅう
小言や
ダメ出しされたりを言われていた。



なし男も
「そりゃ、しょうがないのでは?なし子の言い分もわかるのでは?」と
よくフォローしてみるが


母親さんは
生来ネガティブ気質なのに
隠れた自信家であるのか


友人なども褒めたり認めたらり
いいところを語ったりすることがほとんどなく


なし子にも
とにかくダメ出しやサゲる話が多く
気の毒だった。


小学校の頃からか
なし男は

家と外の線引きが
感覚的に分かってか


たまたま
良い環境に恵まれてか



内なる怒りを
外では出さずに済んでいて


出さないようにしてたか
出さない方法を覚えれたか
(もしかしたら隠すことがうまくなっていただけかもだが)

そう、
それに、、


そうだ!
本や物語だ!


たぶん、
その頃からだ!


なし男は
本や物語を
よく読むようになっていたと思う


そんなふうな
色々で
普通に過ごせるようになっていた。

しかし
なし子は
なし男より素直だったからか
家のスタイル・ルールとの切り分けが器用でなかったのか


学校生活でも
ずいぶん苦労していたようだった



だんだん
笑顔や明るさがなくなり
ピリピリと緊張した雰囲気をまとうようになってしまった。

友人付き合いは
少ないようで

外で
よく友人たちとぶつかってしまうようだった。

少し仲良くなると
自分の家で起こっていることの
説明としんどさを
誰にでも
どんどん語ってしまうようで


それに対しての怒りを
外の友人に理解を求めるのだが


家で見ている、されているスタイルが
自然に、そのまま出てしまうようで


伝え方、言い方が
どうしてもブツけるようになってしまい


最初はよく話を聞いてくれていた友人も
耐えきれなくなってか
だんだん少し距離が置かれるようになってしまってくると


その人にも
攻撃的になってしまうようだった。


それに
正しくあるべきと
いつもダメだしをされてしまっているからか


正しいの基準値が
すごく上がってしまっていて

「あの子はちゃんときいてくれない!」と
正しくないことに
攻撃的になってしまうようだった。

友人間の
身内的な関係に対しても
責めるように正しさを伝えてしまうようだった。


何かにつけ
「こうあるべき、あなたはできてない」と
言われていたからか


あらゆる正しさの伝え方にも
内なる怒りがこもってしまっているのかもしれなかった。

自分が一番傷ついているのに
自分でも止まらないようだった。


よく消耗させられていた。
可哀想で、たまらなかった。

なし男と
なし子は



我が家のスタイルについて
様々な違和感を
何度となく
二人で相談し合ったものだった。



なし男は
なし子にものすごく感謝している


なし子と
よく話ができていたことが
救いだった。


なし子が
いなかったら…


耐えられていなかっただろうと
なし男は
思う


とにかく
なし男は
なし子がいなかったら
ここまでやってこれなかったと
真に思っていた。

なし子は
すごいところが
沢山あったし
とても尊敬もしていた。

しかして
そんな
ある時


なし男にとって
忘れられない出来事が
あった。

大学に入り
友人関係で悩んでた



なし子は
友人たちに
仲間はずれにされ
直接や陰で
厳しいことを言われたり


グループを組まれて
色々言われたりが重なったようで


追い詰められて
授業にも
いけなくなってしまい


でも行かないと
色々言われるしで


学校に行くも
吐き気や頭痛や過呼吸などからか
保健室に通うようになってしまったのだ。

その頃も
なし男は
なし子の話を聞いていて
可哀想でたまらなかった。

たしかに
なし子の意見が偏ってしまったり
言い方だったりが激しく強く攻撃的に
なってしまったりしてしまっている時もあるようだったが、

あの環境の中で
いつ怒鳴られるか分からない
ピリピリした中で
ずっと過ごして
正しさについて
ダメだしされていたら
そうなるのは当然のようにしか思えなかったのだ。

なし男には
まったく
なし子に
非がないようにしか思えなかったのだ。

だって
あんなにかわいくて優しくて大人しくて
怖がりで、
なし男の知っている
なし子は
そもそも、そんな子でしかなかったし
今も、まったく変わってなんかいないのだ。

そんな中で
繰り返し
保健室に通っていることが
両親に知れて

なし男が
家にいる時に
家族会議なるものが開かれた。



父親と母親に
対面の
2対1で
なし子が座らされ


なし男は
なし子の少し後ろに座ることになった。

なんだか
なし子が何か罪でも犯したような
家族会議と名付けられた
裁判のようだった。

なぜか
なし子が
重大な犯罪でも犯して
裁判されているようだった。



その時の父親は
なぜか自分の威厳を見せつける時と
ここぞとばかりに
鼻息あらくかっこつけいて
裁判官のように映った。



そんな両親を前にして
なし子は
現況を
伝え訴え始めた。



なし男が後ろに座っていたからか
思いのたけを
一生懸命、必死で目一杯


友人から無視された
こういうことをいうとこう言われた
こんなことされた、

涙ながら、
途中、過呼吸気味にヒューヒュー
息をのんだり、つまりながらだった。



たしかに
なし子は思いが強いし
ひとつひとつ理屈を取り上げれば
偏っているように見える、かも知れない


けど、
よく聞けば

なし子は
「自分もちゃんとできてないけど」と語る中

環境からか
なし子の自分に対しての正しいの基準値が
ものすごく高く厳しく

感情的なところを
除いて
ちゃんと
バランスよく聞いていると

なし子の方が
はるかに
ちゃんとできていて
的を得ていることも多かった。

なし男を含めて
周囲の友人連中なんかより
はるかに
ちゃんとできている部分も多かった

しかして
なし子が
感情的に
大きく発していたこと、



つらい
しんどい、

なし子が
目一杯訴えてた、



あの小さくてかわいらしくて
優しい
なし子が
必死に訴えていた。


なし男は
聞いていて、
たまらなくなった、

….


ひとかたまりの説明をおえて
一区切りつくころには


なし子は
ぐったり
動けなくなった様子になり
うなだれるように
静かになった



その様子を
父親は
両手を組んで
しばらく
じっと
だまって聞いていた。

そして
何か言おうと
口を開こうとした

あの時
なし男は
たぶん、心から祈ってたと思う


「頼む、頼むから、なし子の気持ちが救われるようなコトバをいってほしい!」と…

そうしたところ
おもむろに
父親は
口を開き


威厳たっぷりか
ほれ見ろと言わんばかりにか


大声で
がつんと
こう言い放ったのだ

「なし子、お前が悪い!」と


その横で
母親は、だまってうなづいていた。

続けて
「お友達さんの言うことも、もっともだ。」

なし男は
呆然とし
アタマが真っ白になった。

「え?!…」

遠のく意識のなかで
思いつつ

いや
ほんとのところ
案の定
「やっぱりか」と

ほんとは
うすうす分かっていた


性格からして
そんなことを言うのではないか、と

でも

「たのむ!たのむから今だけは!今回だけはどうか!」
「たのむ!なし子が、こんなにしんどそうに必死で語ってるから!」

そう思ってたけど、



やはり、
そうはならなかった。
自分の見方は甘かった、
読み誤っていた。

そして
父親さんは
その後



「冷静に状況を見ると、お前の方が違う、それはこうこうで」などを
色々と
ひとつひとつの
“正しい”ポイントを拾い上げて


修正すべき“正しい”ポイントを

意気揚々と
語りだした。

そこからは
よく覚えていない。


なし男も
何も言い返す気にもならず


なし子が
うなだれていたか
悲しみで言い返したかを

背中をさすって
その場から離れるように促して、
一緒に部屋に戻っていったか



そんな風だったように思う…

けれど
忘れられない光景だ。

何年たった今も
思い出すと
涙が出てしまう光景だ。

「なんでまたこんなことを思い出したのだろう。思い出してそんなに楽しくなることでもないのに…」



実は
精神を病んでしまう


一番の原因は
ネガティブ・フィードバック
ということを聞いたことがある。


繰り返し
ネガティブな記憶を思い出してしまうことで
当時の同じ傷が蘇ってしまうという話だ。


加えて
最近の研究によると


実際に殴られた場合と
手は出されなくても
ひどいコトバを浴びせられた場合


脳の
同じ箇所が
同じレベルで損傷の反応を示すという結果があると聞いた。

ひどいコトバや記憶は
実際に殴られることと
同じダメージを受けてしまうということだ。

「そういえば…」と

ふと、なし男のアタマの中に
ふたたび「おさんぽアルケミスト」のフレーズが蘇ってきた。


なし男は
主人公が旅に出てからの話が好きだったので

旅に出る前の箇所は
読み流し程度で
軽くしか読んでなかったはずなのに


思い出してきたのは
旅に出る前として
書かれて箇所の話だった、

〜〜〜〜


「思い出や記憶ってね

 日頃は
 洋服ダンスの中や
 冷蔵庫の中に
 引き出しのようにしまわれているんだ。

 しんどい時って
 その引き出しを
 引っ張って

 中をみて
 “うわー!ひどい、ぐちゃぐちゃだ!“って…

 でも
 片付けるのは大変そうだし
 
 どう
 片付けていいかも途方に暮れるしで

 で
 ガッカリして
 
 また
 引き出し戻しちゃうんだよ!


 それだと
 やっぱそのまんまだったりしてね

 で
    ガッカリしてエネルギーも奪われるし
 
 いつまでも気になるし

 そんなんだと
 他の新しいステキなものもしまえないのさ!

 その昔、
 パソコンってものがあっただろ?

 あれのメモリってのも
 同じような仕組みらしいんだけどね


 だからね

 そんな風になった時は

 表に出して
 片付けなきゃなんないんだ!

 そう
 そういうことなのさ!

 思い切って

 表現、
 表に現れるようにする、のさ!

 口にしたり、
 書いてみたりするんだ!」

〜〜〜〜

〜〜〜〜

「そりゃー
 外から見た目で
 比べれてみれば

 自分より
 しんどい経験、大変な経験を人は
 たくさんいるさ!


 でも、
 それらでは
 決して
 それぞれの人が
 内面で感じている
 しんどさだったり


 内面を
 測ったり
 比べたりする
 モノサシにはならないさ!


 それらは
 決して
 測ったり
 比べたりはできない


 たぶん
 それぞれの人が
 それぞれの中で
 しんどさだったり
 タイヘンさを抱えているんだ!


 たぶん
 時に
 人って
 それぞれ
 
 主観で生きている部分も
 だいたい、
 まったく大きいものなんだ!

 だから
 人は
 それぞれで
 引き出しを持っているものなのさ!」

 〜〜〜〜
 

 
「どうして、こんなフレーズを思い出すのだろう?」


なし男は
長い長い
心の旅をしているような気分だった。

(つづく)

【作品集・まとめ】https://note.com/embed/notes/nc1813f870156






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